慶応四年、鳥羽伏見の戦の末、大坂城からは火の手が上がっていた。
新選組・吉村寛一郎は、深手を負いながらも、どうしても子供たちの顔が一目見たいがために命からがら歩みを進めていきます。
南部藩大坂蔵屋敷裏門までたどり着いた吉村ですが、脱藩の末の帰参など、招かれざる客に過ぎなかったのでした。
「壬生義士伝」1巻のあらすじ
南部藩を脱藩し、命乞いに戻った吉村がたどり着いた南部藩大坂蔵屋敷。差配役を務める大野は、吉村の処遇に悩みます。かつて南部藩時代、吉村は大野の下で働き、そして二人はもともと幼馴染だったのです。
武士の筋を通すべく、切腹を申し渡す大野。何とか生きながらえたく、ここまで必死に歩いてきた吉村には、あまりにも残酷な言葉でした。本来ならば、屋敷内に通すことも迷うところを、大野は情けをかけ奥の間での切腹を言い渡します。
一目、妻と子に会いたかった吉村は、その言葉に従うしか道は無くなっていたのでした。
「壬生義士伝」1巻のネタバレ
南部藩は、勤皇も佐幕もなく、中立の立場にありました。そこに、鳥羽伏見の戦を落ち延びた新選組が助けを請えば、どれだけ迷惑になるか、吉村もわかっていました。
田舎に生まれながら、学問も剣術も秀でていた吉村は、ただ金のためにここまで動いてきました。プライドも捨て、妻や子に人並みのものを与えてやりたいという思いが、ここまでになってしまったのです。
尊王攘夷などにも興味があったわけでもなく、自分の才能に対し天狗になってしまったのが始まりでした。脱藩の際、唯一挨拶に行ったのが大野でした。
大野は、なんとか思いとどまらせようと、生活の手助けまでしようとしましたが、それも聞かず吉村は脱藩したのです。そのために、大野の怒りは大きいものになってしまっていたのでした。そして静かに、吉村はひとり命を終わらせたのでした。
時代は大正へと移り、ひとりの男が「角谷」を訪れます。ビールを飲みながら、店主の昔話を聞く男。
そして男は、吉村寛一郎の話をしてほしいと店主に言います。店主は、元新選組の隊士だったのです。驚いた店主でしたが、かつて新選組にいた時代の話を男に聞かせてやるのでした。
そこで語られる吉村は、職業は武士であっても、心まで武士になりきれなかった吉村を店主は煙たがっていたのでした。
感想
かつて、もてはやされた新選組。その隊士たちは、皆が皆、真から尊王攘夷の志を持っていたとは限らないということなのかもしれませんね。
自分の能力と金を天秤にかけた吉村。武士は武士らしく、というのは、武士として生まれ育った人間にしか通用しないのかもしれません。平民から武士となった人間とは、元からの志が違ったのでしょう。
金に汚いということで、あまり周囲からの評判の良くなかった吉村。でもそれは、故郷に残した妻子を思ってのこと。人間としては、とても優しい男だったのでしょう。
しかしそれを認めてもらえる世界ではなかったことから、いつしか孤立してしまったのでしょうね。
新選組の志とかけ離れていた吉村の生き様は、本当に見苦しいものだったのでしょうか。これから語られる吉村の過去にとても興味が沸きます。
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