ヴァムピール、とは吸血鬼の事。
しかし、この作品の吸血鬼は血を吸うわけではありません。人の負の感情を喰らい、世界をさまよい歩く彼らを描いたこの作品は、人間ドラマとして読み応えありです。
「ヴァムピール」1巻のあらすじ
高校生の水沫伶《みなわりょう》は、飛び降り自殺を図った少女の巻き添えになり、一分間だけ死んだ後、九死に一生を得て生きかえります。
生きかえったあと、伶は自分の変化に気づきます。髪が金髪になり目が赤くなっていたこと。見えないはずのもの、幽霊が見えるようになったこと。人の残留思念を聞き取れるようになったこと。暗闇の中でも目が見えるようになったこと。そして、幽霊も逃げ出すような人ならざる得体の知れない影が見えるようになったこと。
また伶は、自分を巻き添えにした少女の霊が自分についてきていることに気づき、しかし幽霊なのに気の弱そうな彼女にだんだん感情移入してしまっています。幼い頃に両親をなくし、保険の外交員の姉と二人暮らしの伶は、日常生活に戻りはじめますが、ある時彼は得体の知れない少女に出会います。
彼女は、得体の知れない影のような異質な雰囲気を持ち、伶に、得体の知れない影は、伶が死んだ時に一度伶の体に入り、生きかえってはじき出されたため、再び伶が死ぬのを待っていると言いだします。
「あなたは半分だけこちらの者になってしまったの。死者の世界の住人に――」
この謎の少女の正体は何者でしょう? 伶はこれから、人として生きていくことはできるのでしょうか?
「ヴァムピール」1巻のネタバレ
ネタバレです。少女は、得体の知れない影を「ヴァムピール」と呼び、前の姿のイメージを思い出すよう影に話しかけます。すると、影は人の姿をとりました。
影は少女をカンタレッラと呼び、旧知の者のように話しかけます。
そして、影は伶に、死んだ後自分が中に入れば、伶の意識を残しながら肉体の限界までキープして生かせ続けられる、二人で仲良く使おうじゃないかと提案します。人の体を保てなくなった影はまたくるよ、の言葉を残し消えてしまいますが、死んでほしいと言われた伶は影に反発し、思い通りになるつもりはありません。
また、自殺した少女の名前はみほといい、城西医大の学長の娘でした。彼女は学校でいじめられ、さらには家で義理の父親の性的虐待にあい、母親に相談しても助けてもらえず、自分への性的虐待に終わりはないと知って自殺したのです。
彼女と伶は、側にいるうちにだんだん仲良くなっていきました。しかし、みほの自殺の原因を知った伶に、ほしかった言葉をもらって、みほは成仏します。
そして、伶の学校に転校してきた謎の少女、北杜笙《ほくとしょう》は、中途半端な存在の伶はおかしなモノをひきよせるため、気になったからきたと言います。笙は、生きた人間の生命流動体、オドと呼ばれるものを喰べます。生命の力を食べる彼らは、ヴァムピール――吸血鬼とも呼ばれました。
笙と体を共有するカンタレッラは、みほの母親のオドを喰らいます。学長夫人の座に執着し、夫を盗った女として娘のみほに嫉妬していた母親は、負の感情を喰べるカンタレッラにとって極上の餌だったのです。
死者の世界の住人に関わってしまった伶と笙は、これからどのような選択をしていくのでしょうか――。
「ヴァムピール」1巻の感想
謎とサスペンスに満ちた始まり方をする「ヴァムピール」は、絵の美しさと軽快なストーリーの運びによって、先の展開を期待しながら読める良作です。ヴァムピール達が垣間見ていく負の感情渦巻く人間達の愛憎劇は、ドロドロもありつつ、切なさも感じられ、読み応え一杯です。
作者は少女漫画出身の方ですが、甘さよりも人間ドラマやサスペンスが中心になっているので、男性の方にもオススメです。物語ははじまったばかりですが、ヴァムピールの力が入ってしまった伶は、おそらくこれからもおかしなものを引き寄せるでしょう。
伶と笙が人とヴァムピールのはざまでどのように生きていくのか、先の展開に期待が高まります。
この記事へのコメントはありません。