昭和19年春。世の中は戦争という喧騒の時代。
そんな中、たくましく、つつましく、命ある限り生き抜こうとする人間たち。辛さを生きる糧とする時代のお話です。
「あとかたの街」1巻のあらすじ
戦争真っ只中の時代、街で女性の車掌を見かけた少女、あい。凛とした車掌に、労働婦人へのあこがれを抱きます。
家では、大黒柱である父、母、そしてみね、あい、とき、すえの6人が質素な生活を送っていました。配給の量も減っていき、質素な食事を強いられるため、育ち盛りの4姉妹はいつもお腹をすかせています。
隣組の波多野の葬儀へ行った父は、大事そうにひとつの包みを持ち帰ってきました。その中には、久しく食べていない卵が入っていたのでした。食事は大黒柱の父親だけは豪華で、父が残した卵焼きを家族で分け合い、ほんの少ししか口に入りません。
翌朝波多野の家へ卵をもっと分けてもらえないかと訪れたあいの目に映ったのは、すっかりやつれた波多野の妻でした。
夫を亡くし、生きる気力を失った波多野の妻に、貰った卵のおかげでみんなの力が出たと話します。波多野の妻は、泣きながら生きるということを考えるのでした。
「あとかたの街」1巻のネタバレ
国民学校初等科を卒業したあいは、そのまま高等科へと進学しました。仲のいい友人たちと、卒業後の女学校での日々を思い浮かべながら希望に満ちた生活を期待していたものの、お金のないあいだけは、女学校へは進めず、そのまま高等科へと進学することになったのです。
あいの授業は、女学校と違い肉体労働や軍事教練があります。女学校のように合唱や、ましてや素敵な制服もない高等科。恐ろしい竹槍の訓練で、あいは危うく刺されそうになり、戦争というものの恐怖を味わいます。
小さな子供たちが戦争ごっこをして遊んでるのを見かけたあい。敵役の子が穴に落ち動かなくなってしまったことから、あいは恐る恐る様子を見にいきます。
意識が戻ったその男の子は、波多野の甥の洋三だと名乗ります。戦争で父親を亡くした子たちを笑顔にするため、一緒に遊んでいたのでした。心配してくれたあいにお礼を言う洋三に、あいは温かい気持ちになるのでした。
3女のときは疎開し、高等科では、遂に授業が全面廃止され、労働に充てられるようになりました。
母は男の子を産めなかったことで周囲になじられ、父は男の子が産まれなかったことを無念に思いながら酔いつぶれ、あいは友人に貧乏なことをバカにされ、戦争というものの残酷さを思い知るのです。
ある日、周囲のざわめきに上空を見上げると、そこには見たことのない飛行機がこちらに向かって飛んできているのでした。
感想
戦争とは、いったい何のためのものだったのでしょう。人々の生活から奪えるものを全て奪い、子供までもが労働要因になってしまう時代。
あいのような少女たちは、戦争の意味も実感もないまま、選ぶ道を与えられることもなく淡々と生きていますね。あいは、ただいつも家族揃って過ごしていたかっただけなのに、それすら時代は許してくれません。
幼い妹は疎開の意味もわからないまま旅立ち、残されたあいたちは肩身の狭い思いをしながら生き続けている。あいの思い描いた笑顔にあふれる生活は、夢と消えてしまい、労働に明け暮れる毎日です。
父と母の苦悩もまだわかっていないあいは、成長とともにその辛さを実感していくのでしょうね。厳しい時代、生き抜く力をつけてほしいと願うばかりです。
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