人間は異質のものを排除しがちです。それは、オキナガも例外ではありません。吸血鬼として世間から白眼視される彼らには、安住の地はありません。
自由の地を求める彼らに救いはあるのでしょうか?
「白暮のクロニクル」3巻のあらすじ
伏木は、外勤で一人のオキナガ、長居が行方不明になったことを知ります。久保園によれば、世間的にいづらくなったオキナガが行方不明になることはよくある事のようで、オキナガは一所に住むことは吸血鬼として異端視されるためなかなかできないと聞き、伏木は驚きます。
後日、伏木は雪村に吸血鬼とは本当かと問いただします。オキナガは血を吸って仲間を増やすことはないが、人の血を吸う事はあることを雪村は教えます。そのため、普通の人がオキナガを排斥する口実になっていました。
雪村は、昔なじみのオキナガ、巻上に、住んで居づらくなるような噂はないかと尋ねます。巻上は、オキナガの集まりで変な噂が出て居づらくなった話が何件か出たことを話します。意図的にオキナガの噂をばらまかれているのではないかと雪村は疑います。
そして伏木は、岐阜の山村にオキナガが集まっているらしいとの情報により、久保園と出張を命じられます。伏木は地元の厚生局の寺岡より、限界集落にオキナガが集まっているという噂があること、そして引っ越して来た普通の人間の夫婦の子供が、オキナガではないかという疑いがあることを知ります。
翌日、村の役場に行った伏木と久保園ですが、ものものしい雰囲気に驚きます。村で高校生の少年二人が行方不明になり、山狩りが行われていたのです。
皆は少年達と会っていたという疑いのある不審な人物、叶の家に向かいます。彼は、夜中しか出歩かず、オキナガの特徴と合致していました。果たして、村に集まるオキナガと噂される者達の目的は――?
「白暮のクロニクル」3巻のネタバレ
ネタバレです。オキナガは、生肉や人の血を吸いますが、オキナガの吸血は、食欲よりも性欲からなされ、オキナガは恋人など決まった相手から同意の上、血をもらう事が多いのです。しかし、吸血鬼というイメージが一人歩きして、一般人から忌み嫌われている状態です。
なので、オキナガは正体を現さないように、住処を転々とします。岐阜の集落に集まったオキナガ達も、同様に居場所を求めて集まった者達でした。
限界集落なので、いつかオキナガにとって暮らしやすくなると目されていましたが、行方不明になった少年の件で、実際少年の行方には関わってないとはいえ、二人の少年を裸絵のモデルにしていた画家のオキナガ、叶は村から追放になり、騒ぎでオキナガの定住は前途多難になりました。
そしてオキナガ移住の中心人物であった時任夫婦は、娘がオキナガである事を承知しています。この娘希梨花は、本当の娘ではありませんでした。誘拐され殺された娘の代わりに、よく似たオキナガの娘、希梨花を自分の娘だと思いこんで育てていたのです。このように子供のオキナガが人間の家族を保護者にして寄生して生きることを、オキナガ達はヤドリギと呼びます。
本当の家族のように過ごしていた希梨花と時任夫婦でしたが、伏木達の説得により、希梨花はオキナガの保護施設に引き取られます。
家の明かりを見ながら「あの明かりは、生きている限り手に入れられるものじゃないのかも…」と言うあきらめ混じりの希梨花の言葉に、同じ姿をしていてもまともな人として生きられないオキナガの悲劇を感じます。
「白暮のクロニクル」3巻の感想
オキナガと人間社会の軋轢を目の当たりにした3巻でしたが、オキナガ達の生きづらさがこれでもかと描かれています。
しかしその中でも、叶の秘書の難波のように、相手がオキナガだとわかっていてもパートナーとして支えていくような人物の存在もあり、時任夫婦のようにオキナガが暮らしやすいように便宜を図る者もいます。
安定もなく永遠に近い時間を生きるのはどんなに苦しいことでしょう。ヤドリギの希梨花は、長い間、保護者の間を転々として生きてきました。少女のまま生き続ける彼女が求めたものは、家の明かりでした。そんな希梨花を見る雪村も、自分には無縁のものだと理解しています。
果たしてこれから先、彼らオキナガ達に救いはあるのでしょうか。どんな形でも彼らに安住の地があればと願わずにいられません。
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